日時2023年5月13日(土)日本時間21:00~22:30
参加者現役生
・井村瞭介(イムラ・リョウスケ)、Loughborough University, Sport Business and Leadership在学(イギリス)
・重田良輔(ジュウダ・リョウスケ)、The University of Liverpool, Football Industries MBA(通称FIMBA)在学(イギリス)
・渡邉宏樹(ワタナベ・ヒロキ)、The Football Business Academy(通称FBA)在学(スイス)

SPORT GLOBAL事務局
・辻翔子(FIFPRO)オランダ在住
・椙山正弘(アジアサッカー連盟)マレーシア在住
・阿部博一(アジアサッカー連盟)マレーシア在住

企画の概要説明

SPORT GLOBAL現役生企画は、現在海外の大学院でスポーツ分野について学んでいる日本人に、入学までの経緯、大学院の授業、同級生について、そして日々の生活で気付いたことなどをインタビューしていく企画です。2ヶ月に1回程度の頻度でインタビューをしていき、卒業、そして就職までの道のりをリアルに追いかけていきます。

2020年にSPORT GLOBALのメインプロジェクトとして始まった現役生企画も今年でシーズン3 に突入。これまで日本or海外学部卒→大学院、就業→大学院など様々なキャリアを持つゲストに参加して頂き、イギリス、スペイン、アメリカ、フランスなど、複数国のスポーツマネジメント系の大学院プログラムを紹介して来ました。

シーズン3では、日本の学部卒→大学院、就業→大学院、就業+大学院という、それぞれ異なるバッググラウンドを持つ3名に参加して頂いています。FBA、FIMBA、Loughborogh大学という、今回初めて取り上げる大学院プログラムに、SPORT GLOBALメンバーも興奮を隠せません!それではシーズン3の第2回をお楽しみください。

それぞれの大学院の授業内容&特徴

登場人物A重田良輔さん

FIMBAのプログラムの特徴は、フットボールにフォーカスがあるところ、そして、アカデミックな要素が多いところです。リバプール大学は一般的なMBA(ジェネラル)プログラムも提供しており、FIMBA(Football Industry MBA)の学生も、4割程度はジェネラルMBAの科目を受講します。ジェネラルMBAの学生とも接点があるのは良い事だと思います。FIMBAとMBAの主な違いとしては、ジェネラルMBAでは議論の対象が一般企業ですが、FIMBAではフットボールクラブ、協会に焦点があります。この2つの比較が出来るのも、FIMBAの特徴だと思います。仮にFIMBA卒業後、サッカー界以外でキャリアを築いても、ジェネラルMBAの科目で学んだ知識を活かす事が可能です。MBAとFIMBAの双方で提供されている科目もあり、例えばファイナンスは、ジェネラルのファイナンスとフットボールに特化したファイナンスの両方を受講する必要があります。どちらのファイナンスもKieran Maguire氏が講師です。彼はイギリスでは有名なフットボールファイナンスアナリストで、Price of Football と言う本も出版しています。Podcastも面白いです。

Price of Football; Podcast 参照
https://podcasts.apple.com/gb/podcast/the-price-of-football/id1482886394

登場人物A渡邉宏樹さん

FBAの特徴は大きく3つあると考えています。1つ目は内容がプラクティカルである事。2つ目は授業がオンライン×オンサイトのハイブリットである事。3つ目はモジュールの一環でインターンシップが含まれている事です。各モジュールは3ヶ月毎に区切られ、モジュール1では政治、歴史、法律、財務、マクロトレンドなどスポーツマネジメントの基礎となる科目を学びます。しかし、モジュール2からは、スタジアムビジネス、スポンサーシップ、メディアビジネス、デジタルマーケティングなど、実践的な内容にシフトし始めます。各科目共通な事として、講師の方はその分野の専門として、実際に現在企業やクラブで働いている方がレクチャーします。例えば、スポンサーシップのクラスでは、スペインのレアル・マドリードを中心にセールスしている代理店の方が講師を担当しており、実際のケーススタディが主な内容の講義となりました。現在はモジュール3に入っており、各々インターンシップに参加している状況です。

登場人物BSG事務局椙山

前回、FBAのオンラインとオンサイトのハイブリットの利点を話していたのが印象的でしたが、FBAがよりプラクティカルな部分にフォーカスしているという点は、どのように感じていますか?

登場人物A渡邉宏樹さん

元々それを理解して参加した訳ですが、やはりプラクティカルな授業からの学びや発見は予想していたより多いです。これは、自分の今までのスポーツビジネスの経験も活きていると感じています。例えばの例として、現在のレアル・マドリードでは、スポンサーシップの9割近くを代理店が決めているようです。ただ、日本の場合は逆で、スポンサーシップの8~9割はクラブ側が決めているイメージです。これはレアルマドリードがスペインに留まらず、グローバルコンテンツである事、スポンサーシップの額が大きく代理店が積極的に関わるインセンティブがある事などが関係していると思います。日本における現在のスポンサーシップの事情をある程度理解しているからこそ、頭に残るポイントなどもあり、日々勉強になってます。

登場人物A井村瞭介さん

プログラムが始まって半年近くたちます。プラクティカルかアカデミックかという視点でいくと、かなりアカデミックに寄っていると思います。スポーツビジネスとリーダーシップに関して幅広く理論を学びます。大学院を選ぶ際に、敢えて分野を絞らないで、大学院での学びを通じて、自分の学びたい事、やりたい事を絞っていく意図があったので、その点では良かったと思います。各授業1ヶ月ルーティンで進んでいき、最初の3週間はレクチャー、最終週はプレゼンまたは課題というパターンが多いです。全体的にはアカデミック寄りなのですが、科目によってはプラクティカルな部分が重視されているものもあり、スポンサーシップ、ストラテジックスポーツマーケティングなどは、ケーススタディなので、よりプラクティカルです。

印象に残っている授業

登場人物A井村瞭介さん

プログラム参加前は、何か絶対的に正しいリーダーシップがあり、それをいかに育み組織の中で変化を起こしていくか、そういった方向性でリーダーシップを学ぶ事を想定していましたが、実際に授業を受けてみると、リーダーシップは流動的であり、どのリーダーシップタイプが正しいというのはなく、それぞれの状況に適したリーダーシップ、つまり相対的なものであるという理解が深まってきています。本当に幅広い分野なので、これから修論を書くにあたり、何か自分の中で軸を決めて、リーダーシップの何について書きたいか明確にする必要があると思っています。その他に特に印象に残っている授業は、ストラテジックスポーツマーケティングです。実際に企業を見つけてきてクラブに対してピッチしますが、就業経験がないので、そのプロセス全てがとても勉強になります。他のグループワークでは、West Ham財団に対してプロジェクト提案をしました。クラブ、組織、企業とのやりとりは本当に新鮮です。

登場人物A渡邉宏樹さん

サステナビリティの授業が一番印象的でした。その理由としては、日本でもSDGsなどサステナビリティに対する意識はかなり高まっていますが、喫緊の課題として捉えられているかといえば、そうではないと感じています。例えば、いくら温暖化で夏が暑いといえど、ナイターでの試合や、給水タイムの導入などである程度対応出来てしまいますよね。一方海外では、テニスの全豪オープンや、多くのウインタースポーツが大会開催の危機に直面するなど、危機感のレベルが違うところで議論が行われています。近年では、プレミアリーグ(EPL)のクラブが先進的な取り組みをしており、リバプールFCがかなり先をいったレポートも出しています。

リバプールFCのサステナビリティに関する取り組み参照https://www.liverpoolfc.com/news/announcements/459080-lfc-celebrates-sustainability-with-launch-of-the-red-way-report

登場人物BSG事務局辻

日本は気候変動に関する報道が少ないと言われているが、オリンピックでもキックオフ時間が変更になるなど確実に影響は出てきているので注目すべき分野だと思います。サステナビリティ分野を極めたら、今後新しい仕事がたくさん出てくるはず。デンマークでサステナビリティの分野を勉強していた友人が、サステナビリティオフィサーとして日本企業に就職が決まったのですが、他にもエクイティダイバーシティ、インクルージョンなどの分野は、日本がそこまで進んでいないので、エキスパートになればニーズは大きいと思います。

登場人物A渡邉宏樹さん

本当にその通りだと思います。個人的には、Web3.0関連、サステナビリティの2分野にはかなり注目しております。ただ、どのようにビジネスに落とし込んでいくかまでイメージは出来ていませんが。近年様々なステークホルダーによるサステナビリティレポートは数多く出回っていますし、オンラインのワークショップも多様にあるので、まだまだ調べている最中です

登場人物A井村瞭介さん

サステナビリティの授業はラフバラ大学でもありました。日本の事例が結構取り上げられるのですが、日本ではそこまで話題になっていないのでギャップを感じます。修論のプロジェクトで大学と企業と連携して進めるものがあり、社会と環境がテーマになっているので、色々学びを深めていきたいと思います。

登場人物A重田良輔さん

フットボールエグゼクティブの授業が一番印象に残っています。セメスター2の最後にある授業ですが、スタジアムオペレーション、クラブ対応、記者会見など、かなり実践的な内容です。この授業に関してはスコットランドフットボールリーグCEO Neil Doncaster氏が全体をオーガナイズしてくれました。スポーツ法学の授業では、課題として移籍交渉のシミュレーションを行いましたクラブサイド、エージェントサイドに分かれて選手獲得における駆け引きを行います。著名なゲストスピーカー(※一覧参照)が、セッションをしてくれるのもFIMBAの魅力だと思います。例えば、EFLチェアマン Rick Parry氏、ブライトンFCCEO Paul Barber氏、他にもリバプールFCのマーケティング担当、マンチェスターシティのイベント・マーケティング担当など、贅沢な顔ぶれです。今年のプログラムでは、一週間スペインのマドリードで研修があったのですが、そこでも多くのゲストスピーカーのセッションがありました。これは良くも悪くもだと思いますが、FIMBAはイギリスという立地、サッカーに特化しているという点から、プログラムのコンテンツ、ゲストスピーカーがかなりEPLに偏っています。それを求めている人達にとっては理想的な環境であり、就職先もEPL関連が多い印象です。

※ゲストスピーカーの一覧

登場人物BSG事務局椙山

FIMBAのプログラムがEPLを中心に構成されているのは大きな特徴ですね。FBAはEPLに焦点があるわけではなく、より幅広いフットボールビジネスが構成という印象がありますが、実際はどうですか?

登場人物A渡邉宏樹さん

EPLが題材にされることは多いですが、EPLに限らず、世界中のフットボールをカバーしていると思います。ゲストスピーカーもヨーロッパだけに限らず、様々な国の人達が授業を担当します。

登場人物BSG事務局阿部

2022年度スポーツビジネス大学院ランキングの卒業生の平均年収で、FIMBAは20万ドルを超えていて断トツのトップですが、年収の高いEPLに就職する人が多いのが一つの要因なのかなと思いました。

参照:2022年度スポーツビジネス大学院ランキング
https://sportglobal.jp/2022/11/17/sportbusiness-postgraduate-course-rankings-2022/

登場人物A重田良輔さん

確かにそれはあると思います。EPL、EPLクラブに就職、転職する卒業生は多いです。また、UEFA、FIFAにも就職する卒業生もいます。

それぞれの大学院のクラスメートのプロフィール(クラスの規模、男女比、海外からの留学生の割合)について

登場人物A渡邉宏樹さん

参加者の国籍は17ヶ国で、今期は33名います。印象としては、ヨーロッパ6~7割、アメリカ2~3割、アジアからは毎期2名程度ですね。今期は日本とフィリピン、前期は中国と韓国から参加者がいました。あとはインドからも定期的に参加者がいるようです。学生の平均年齢は20代後半で、私が今年35歳で上から2番目です。大卒の参加者もいますが、基本的には職務経験が必要です。今期は女性の参加者は2名のみで、男女比は偏りが大きいです。

また、職務経験のバックグランドは様々ですが、半分近くはスポーツ業界で働いている人達です。他には、世界的な投資銀行のように違う分野の大企業で働いていたというような人もいます。意外だったのが、クラブやアカデミーのスポーツダイレクター、テクニカルダイレクター側の仕事に関わりたく当プログラムに参加している人達もいます。授業でも、クラブ&アカデミースポーツマネジメントという科目があり、フットボールにおける強化側の事業をサポートしているコンサルティング会社がレクチャーしてくれます。この会社でインターンシップをしているクラスメートもいます。

登場人物BSG事務局椙山

これまでテクニカルダイレクターのポジションは、元選手だったり、ある程度の競技経験がある人達に限られていたけど、競技歴を問わず色々な人達に機会が出てきたのは、とてもポジティブな変化だと思います。夢がある!

登場人物A重田良輔さん

FIMBAは今期26名です。一般のMBAを合わせると70名程度います。FIMBAの平均年齢は35~36歳と若干高めになっており、これは3~5年の職務経験を必須としているからだと思います。男女比は5:1ぐらい。なので今期は5名程度です。参加者のバックグランドは、エージェント、協会、メディア、他業界など様々です。国籍は、今期に限って言えば実は日本人が一番多いです。コロナで日本人3名が入学を時期をずらしているので、日本人6名、イギリス人5名、インド人5名、中国、アメリカ、ナイジェリア、アルジェリア、チリ、ペルー、アゼルバイジャンという構成です。イギリス人の4名はSky Sportsの奨学生です。こちらのテレビでFIMBAのCMも流れています。Sky Sportsの中にKick it Outというチャリティ部門があり、そこかFIMBAと提携しているようです。Kick it Outは、社会のあらゆる差別をサッカーを通じて解決していく事をミッションにしています。元々は、1993年にサッカーにおける人種差別をなくすべく設立された組織です。

参照Kick it Out
https://www.kickitout.org/

登場人物A井村瞭介さん

クラス全体では25名です。男女比7:3程度ですね。国籍は、中国、台湾からの留学生が多くて4割程度です。あとは、インド、サウジアラビア、イタリア、オランダ、ドイツ、南アフリカ、ブラジルからも留学生がいます。イギリス人は3名のみ。日本人は自分1人だけです。以前は日本人留学生もいたそうですが、今はキャンパス全体でも日本人は自分だけです。学生の平均年齢は20代後半ぐらい。職歴は、スポーツ業界で働いていた人が多いです。元プロサッカー選手もいます。7~8割は職務経験がある人達で、残りが学部卒生です。国によって専攻したいスポーツが異なるのが興味深いです。ヨーロッパならサッカー、中国ならバスケットボール、インドならクリケットなど。

ユニークなクラスメート

登場人物A井村瞭介さん

ベルギーとザンビアのミックスの学生がいて、年齢は30歳で年上ですが仲良くしています。元々チェルシーの下部組織でプレーしていて、ヨーロッパチャンピオン、ベルギーのアンダーカテゴリー代表経験もあります。チェルシーでトップチームに上がったのですが、怪我もあり引退し、チェルシーのフロントで働き始め、今はトットナムでスカウティングをしています。彼のように、自分がやっていた競技に対するパッションがある学生は多くいて、競技者としてのキャリア後も、何か違う形で関わりたいという方向性は、自分と似ていると思います。
参照:イム物語(https://sportglobal.jp/2022/11/03/imu-diary-episode-1/

実は、大学院のプログラムが始まった当初はうまくいかない事が多く、コロナにもかかったりで精神的に不安定でした。一番最初の授業の課題で0点を取ってしまい、そこからはなりふり構わず教授やクラスメートに助けを求めるように心がけ、しばらくすると向こうも自分の事を覚えてくれて、今ではみんな“Imu”と呼んでくれて、切磋琢磨しています。何か一つ壁を乗り越えた感覚があり、優秀なクラスメートと知的に刺激的な毎日を送っています。

登場人物A重田良輔さん

ロンドンから来ている、イギリス人のアーセナルファンと仲良くしています。今年はアーセナル戦のチケットがなかなか取れないようで、自分もリバプールのチケットを取るのに苦労しているので、共通点があり気が合うのだと思います。彼は以前アマゾンでタックスマネジメント業務をしていた経験があり、それをサッカー界で活かしていきたいと考えているようです。私も職種は違えど、前職で身に付けたスキルをサッカー界で活かしていきたいという考えは同じです。自分と似たキャリアを志す人と情報交換をするのは、お互いメリットがありますし、英語のトレーニングにもなるので、重要だと思います。他にも、インド人もイギリスにバックグラウンドがある人が多く、彼らともサッカーの話で盛り上がります。コアなリバプールファンも自分を含めて4名います。

登場人物A渡邉宏樹さん

一番良くコンタクトを取るのは、フィリピン人のクラスメートです。リモート授業なので、時差が近い人と自然とプロジェクトを一緒に行うようになりました。単純に時差が日本の真逆だと、打ち合わせの日程調整が難しいので。クラスのWhatsAppグループがあるのですが、日本時間の夜にヨーロッパサッカーの試合があるので、朝起きると100件以上メッセージが溜まっている事も良くあります。私自身は、マーケティング、エージェンシーなどスポーツのビジネスサイドに興味があるので、今後は同じ分野に興味があるクラスメートと繋がりが深くなっていくと思います。熱烈なサッカーファンばかりで、いずれヨーロッパのフットボールクラブで働きたいと考えている人が8割ぐらいいます。特定の仕事というより、どんな職種でも良いからクラブで働きたい、という人も多いです。

SPORT GLOBALからクロージング

登場人物BSG事務局

シーズン3も、海外大学院留学の新たな知見がたくさん得られそうです。第2回は留学までの経緯を中心にお話を伺いましたが、次回第3回が本シーズンの最終回です。インターンシップ、卒業論文、就職活動などに関して話を伺っていきます。

今後も定期的にインタビューを発信して参りますので、今後取り上げてほしいテーマや現役生に聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

また海外の大学・大学院でスポーツを学んでおり、現役生企画に参加いただける方も随時募集中です。ご連絡お待ちしています。

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